帰国してから1年。
活字不足だと分かりながらあっという間に過ぎた。
先日、友人と待ち合わせ前にふらっと入ったツタヤで本を買った。
2、3ページめくって面白そうという直感でレジに持っていった本だ。
「スーツケースの半分は」
コロナ禍で海外に行けてない自分は、何かを奮い立たせてほしくて手にした。
物語の主人公はフリーマーケットで売っていた青のスーツケース。
このスーツケースを片手に、変わりがわりに4人の働く女性が旅をする。
最初にスーツケースを買ったのは第一話に出てくる「真美」。彼女は結婚済みで安定した夫婦生活を送っている。ニューヨークへ行きたいと思っている一方で、定年後でもいいじゃないかと言う彼女の旦那。彼女は初めての海外旅行、ニューヨークへ1人で行くことを決意するのだ。
かっこよかった。
19歳の頃、私も1人で海外へ滞在したことがある。その時の不安な気持ちと、冒険心に溢れている感情を思い出した。
真美の話は第一話で完結する。
続く第二話でスーツケースと共に香港へ旅するのが「花恵」。
彼女は大学卒業後、実家暮らしを続けながらオフィスのクリーニング会社のマネージャーとして働く。一見、マネージャーという響きを聞くとOLと変わらないではないかと思う。
しかし、彼女は大学生やフリーターと共に働く環境にあるためマネージャーと言えども、欠勤がでるとトイレ掃除をすることもある。
そんな日々を過ごす彼女の趣味は、
年に1度の香港旅行。
彼女はこの香港旅行で、同じ会社のフリーターとして働いている年下の彼と偶然出会う。
そんな彼の事の経歴について考えているうちに元彼を思い出すのだ。
元彼とは長く続いていたが、大学を中退している。人柄よりも、学歴や会社名で人を見るのが花恵の父だった。
それが故、彼のプライドが傷つき別れるのである。
「家族と縁を切ってまで、恋人と駆け落ちしたいと思わない。」
花恵の思いが、自分の過去の気持ちと重なった。
私の元彼はインドネシア人だった。
彼の事が心から大好きでいつまでも一緒にいられると思っていたのだ。
しかし、現実は違った。
離れ離れになるはずなんてないと思い誓っていた気持ちが、自分の家族とどっちが大切か並んだ時、すぐに彼とは答えられなかった。
親は最初から付き合うことに対して否定的だった。
愛情をたっぷり注いで育てた娘を、自分たちよりはるかに収入の低い相手に簡単に渡すなど許すはずもない。そんなの分かっている。
自分の人生なんて自分で決めると言いながら、
結局は親を選んだのだ。
花恵の気持ちに共感して涙がでた。
花恵はその後、フリーターの彼「柏木」と付き合い結婚をする。
気持ちが重なったこともあり、この章を読むたびに心が締め付けられる感じがした。
第3話と第4話は、真美、花恵の友人が再び青のスーツケースを持って旅を続ける。第5話では、パリに留学中の花恵の従兄弟の話だ。
なかなか面白く共感する箇所がいくつかあったが、長くなりそうなので割愛する。
続く第6話からは、青のスーツケースの持ち主について焦点が当たり始める。
ここで「優美」という新しい人物が登場する。
優美は、大学生の一人娘を持つシングルマザーだ。
その娘が、ある日ドイツへ留学したいと話す。
優美は、
苦労して育ててきて、ようやく余裕ができたと思ったら目の前からいなくなってしまうなんて
と感じている。
私はここで初めて親目線の気持ちを知ることができた。
話の内容とマッチするかのように、私も大学卒業後に海外に1年行くと決めて実行したことがある。
もちろん、外国人の彼氏ですら反対する親なら当たり前かのようにこの話をすんなりと受け入れてくれなかった。
当時の私は、「私の人生、私が決める。」が口癖だった。
今思うと堂々としすぎている自分の気持ちに恥ずかしさを感じる。
もちろん、自分の人生など親に左右されたくなかった。結果、私はその気持ちを抱いたまま1年間海外で働くこととなった。
会社の手当も厚かったため、親としては安心できる部分もあったのかもしれない。
無理矢理押し切って無事に任務を終え帰国した今、優美のこの文章をみて胸が苦しくなった。
海外に行くと決意した娘のことを思って、ちょっとばかり反対の気持ちを伝えたい感情が親にあることを知ってしまったのだ。
優美に親からのメッセージに気づかされた気がした。
もちろん、自分の人生を誰かの言葉や制限で左右されたくない。
しかし、親にはその権利があるのだ。
愛情を注がれ健康に育った私は、
恵まれているのだ。
この話の中で、優美は娘が留学中にドイツを訪問する。
目的はただ一つ、娘が住んでいる街を見てみたい気持ちで。
強いて言えば、私も家族に
異国の地で生活している自分の街を紹介したかったなとも思う。
というわけで、かれこれ大学の時に出された課題以来の小説だった。
自分の気持ちが素直に描かれていたり、感情を言語化されているところが、小説のいいところなのかもしれない。
相変わらず、仕事の日々だが、
読書を続けていきたいと思う。
そしてまた、備忘録としてとっておくのだ。